鍵のかかった部屋

わたしが通ったあなたの部屋

毎日あなたが帰ってくるのは待って

ごはんを食べて

実家暮らしのわたし

10時になったら帰る

休みの日はその部屋でゴロゴロ

出不精の二人はゴロゴロ

でも楽しかった

なんでもない日々

大切な日々・・だった

ちょうど3回目の夏が過ぎて

秋にはその部屋に行かなくなった

いや・・行けなくなった

突然の別れ

毎日通ってたからついつい仕事帰りに小田急線に乗ってしまう

あなたの部屋がある向ヶ丘遊園駅に向かって

多摩川を超えるともうすぐ・・

いつも多摩川を見ながら笑顔になってた

でも今は・・

「川崎は東京みたいなもんだよ」

あなたはいつもムキになってた

わたしが目白に住んでるからバカにしてるって・・

そんなことないのに・・

あなたが住んでたから凄く好きだった 川崎

でも今は訪れるとあなたの思い出ばかりで

現実と思い出が交錯して辛い

あなたの住んでた街

あなたが住んでた部屋

あなたからもらった部屋の鍵

もうあなたの部屋にその鍵を差しても開かない

あなたとの思い出の部屋

でも今は

ただの鍵のかかった部屋



緊急速報 Jアラートが鳴るたびに

緊急速報
Jアラートの音でわたしは一瞬心臓が止まる
大地震を経験したわたしたち
Jアラートが鳴るたびにあの時を思い出す
石巻にある大学に通ってたあなた
あの地震の時連絡が取れなくて
九州は大きな被害はなかったから最初は大丈夫だと思ってた
だけどテレビで東日本の悲惨な状況を目の当たりにして
わたしことの重大さに気付いた
携帯に連絡しても繋がらない
あなたの親に聞いても連絡がないと・・
いてもたってもいられない日は10日続いた
そして11日にあなたの親から無事だとの連絡
ずっと泣いてたから涙はもう出ないと思ってたけど
嬉し涙は別だった
本当よかった
それから地震速報やJアラートを聞くとあなたの無事を思うようになった
あなたの苗字になって一諸に住んでる今も
それは変わらない・・


SNSで繋ぐ愛情 フォロワーはわたしだけ

出会った時はPHS
それから携帯になり
メールを送り合って
絵文字が苦手だった
メールより話したかった
お互いメールが苦手だったけど
ケンカしたときはメールで仲直り
あなたとわたしの二人の世界
そして携帯からスマホへ
メールからLINE
Twitterやフェイスブックやインスタグラム
二人の世界から不特定多数の世界へ
でも・・
やっぱり二人の世界がいい
電波が入らなくて携帯を上に掲げてウロウロして
ショーメールからメールになって
絵文字ができて
でもどんなに色々変わっても
最後にあなたからくる言葉は
「愛してる」
その言葉はどんな言葉よりわたしを幸せに
ずっとあなたのフォロワーはわたしだけ


首筋に触れる唇 あなたの香りが忘れられない

あなたの首筋
わたしが一番安心する場所
その首筋に顔をうずめて寝るのが幸せ
あなたの首の香りが好きで
今でも覚えてる
好きな人の香はなぜ覚えてるんだろう
いろんな香水があるけど
あなたの香りが一番好き
鼻の粘膜と脳が覚えてる
あなたの思い出は少しずつ忘れていくけど
あなたの香りは・・
忘れない

母の日のプレゼントはあなたとの結婚

母子家庭で育ったわたし
母はわたしが小さいころに離婚
女手一つでわたしを育ててくれた
パートを掛け持ちして生活費を・・
わたしが寝たあとスナックのバイトもしてたを知ってる
わたしが気づかないように
だから私が大学にも行くことができたし
そんなにお金で不自由した思い出はない
だから早く自立して母親を楽にしてあげたかった
大学を卒業して地元に市役所に就職
そこで知りあった同じ市役所の後輩と婚約
わたしが結婚する人の条件
収入が安定している
長男以外(次男が良い)
浮気をしない
母親との同居ができる
この条件で探したの
正直見た目なんてどうでもよかった
そして見つけたのがあなた
優しくて
わたしの家庭環境を理解してくれて
なにより母がお気に入り
最初は条件だけで探してたけど
本当にいい人と出会ったと思う
だから今年に母に日のプレゼントは・・
あなたとの結婚
喜んでくれると思う
結婚したらわたしの実家で同居して
近い将来家を建てる
母の部屋も用意して
二世帯住宅じゃない
一世帯住宅
借家暮らしで苦労かけたから
マイホームに住ませてあげたい
あなたは母への最高のプレゼント

指先で送るアイシテル

あなたに出会ったから
あなたがいたから
恋を知った
恋が始まった
最初は指先で送る会話だけだった
なにげない出来事をお互い自分のペースで
でもだんだんそうじゃなくなった
携帯でいつもあなたを感じる手紙のマークを探してた
お互い仕事が忙しいから
遭えない日が続く
朝のメール
上司の愚痴メール
友達とのどうでもいいやりとりメール
コンビニで見つけたスイーツのメール
お父さんやお母さんやお兄ちゃんのどうでもいい話メール
おやすみメール
そして
愛してるメール
それがわたしとあなたを繋いでた
でもどちらかでもない
だんだんメールがお互い減り
なんでもないメールが送れられなくなった
指先が動かない夜が何度も
「アイシテル」の5文字が打てない
皆がLINEに変わってもわたしたちはメール
あのマークを感じてたから
あなたを感じてたから
でも・・
もう今はメールなんて入ることはない
あのマークと共にあなたはもういない
指先で送るアイシテル・・はもう届かない

非常事態宣言 

あなたはわがまま
自分の思い通りにいかないと怒りだす
だから人と揉めるし
今までの彼女だって愛想をつかされて別れたって話してた
そんなあなただけど
本当は優しくて
不器用だけどまっすぐな性格
わたしのことも大切にしてくれる
そんなあなたが愛おしくて
だけどわたしだって甘えたい時だってある
ずっと我慢してたらどこかに行きたくなる
非常事態宣言は届いてる?
そしたら・・
和の結婚式が流行ってるらしいなんてあなたらしくないLINEが
そっけない返事をしたら
今度見に行こう・・って
非常事態宣言は解除
だけど
ほっとくといつ発令するかわからないよ

うちで踊ろう

うちで踊ろう
外には出れない
出られない
偉い人が言ってる
パンデミック・・クラスター・・
聞きなれない言葉に戸惑う私たち
あなたはいつも明るいから
笑顔でニュースを見てる
不安だねって言うと
大丈夫と言って・・
「踊ろう!」
「うちで踊ろう!」
携帯から流れる音楽に合わせて踊るわたしとあなた
うちにいるのも楽しい

グッドドクター 恋の病

あなたに会って恋をした
あなたに会って恋の病に
でも今まで人を好きになれなかった病に比べたら
幸せ
人を好きなることなんてないと思ってた
グッドドクター
恋の病を発症させ
心の闇を治すドクター
あなたに会えてよかった
グッドドクター

LOVE LETTER 思い出はポケットの中

槙原敬之「LOVE LETER」



あなたはこの曲が好きだった
そしてその歌詞のように
あなたには渡せなかった
あなたへの「LOVE LETER」
あなたは大学のサークルの先輩
二つ年下のわたしは青森から上京
大学の掲示板の前で声をかけてきた
サークルの勧誘
青森から出てきて初めて話したのがあなた
背が高くてどこか方言があって東京の人って感じじゃなかった
後で聞いたら九州出身
九州弁が抜けないって話してた
津軽弁が少しコンプレックスだったわたしに
「東北弁ってかわいいな!東北の人って本当に色白だね。俺色白な女に弱い」って初対面で言われた
なにかの縁と思いあなたがいるサークルへ
何をするわけでもないただの飲み会サークル
でも色々友達ができてよかった
最初の頃は「この子は東北から来て訛ってるけどバカにすんなよ!俺のお気に入りだからバカにしたら俺が許さんけんな」だって・・
九州の人の話し方は男らしい
そんなこんなで交際がスタート
1年が過ぎあなたは就職活動
あなたは地元に就職予定
実家が事業をしてるから関係会社に就職して修行
俺の地元に来て将来の社長夫人になるかって笑いながら言うあなた
悪くない
あなたと一諸なら
そんな気持ちなんて気づかない
就職が決まりあなたとわたしは離れ離れ
別れる話もなく続けていく話もなく
ただ時間が過ぎ
あなたが地元に帰れる日東京駅にサークル仲間と見送り
あなたの声とサークル仲間の声が砂利に吸い込まれて
電車が通るたびにとぎれとぎれに聞きなれたあなたの声が聞こえる
風通しの悪さと人の熱気で汗ばむわたしにハンカチを差し出すあなた
そしてこう言った
「卒業したらでいいから俺の地元に来てくれないか」
突然で返事ができなかった
あなたが乗る新幹線が出る時間
あなたは乗り込み一生懸命手を振ってた
そして新幹線はあなたが変える南に向かって走りだした
本当は手紙を渡すはずだったの
内容は
今すぐでもあなたが帰る街に行きたい
大学なんて辞めていい
あなたと一諸になれるなら
立派な社長夫人になるから
そんな内容の手紙をポケットの中に
あなたが好きだった曲みたいに渡しそびれないようにと
絶対渡そうと思ってたけど・・
渡せなかった
なぜかわからない
わたしは平凡なサラリーマンの妻
それなりに幸せ
社長夫人でもないし
九州に住んでない
東京でそれなりに暮らしてる
でも
あの時のLOVELETERは・・
まだポケットの中にしまったまま