グレーの手編みマフラー
俺はいまでも大事にしてる
あなたと出会ったのは高校一年生の時
入学して同じクラスになり教室で始めて見た時に一目惚れ
美人というか可愛い感じで・・
違う中学だったからもちろん知らないし俺の中学からは数名しか同じ高校に進学してないからクラスで知ってる人は同じサッカー部の輩のみ
高校生活に多少の不安があったけど・・
この衝撃の出会いに不安なんて吹き飛んだ・・
男なんてそんなもの・・
部活で忙しい自分と帰宅部のあなた・・
クラスでもあまり話せなかった・・
だから6月にある一泊二日の校外研修で思い切って告白・・
なんと‥奇跡のOK!
初めての彼女
初デートの時は色々雑誌で調べたり友達に聞いたりして・・いい思い出
色々話したりデートしたり・・
ある日ベタだけど手編みのマフラーが欲しいって話をしたら・・
あなたは「不器用で裁縫もできないしマフラーなんてできるはずない・・ゴメン」
って
子供だった俺は友達が彼女からもらったことがあることがうらやましい気持ちだけであなたの気持ちなんて考えず「なんでだよっ」って怒ってしまった。
それから意地になった俺は意図的にあなたと距離を置きそっけない態度
本当に幼稚な自分でした
約2か月あなたの気持ちを無視してた12月24日
部活終わりにあなたが待ってた
部室から階段を上がったところで・・
「ごめんね・・本当に不器用だから・・恥ずかしいからマフラーはできないって言ったの・・」
「この二か月間凄く寂しくて・・好きだから・・恥ずかしいけど・・下手だけど・・いびつだけど・・マフラー編んだ・・から受け取って!」と泣きながら言うあなた・・
そんな健気なあなたに・・本当はうれしいのに・・
俺は受け取ると声もかけず帰ってしまった
家でビームスのオレンジ色の袋から手編みのマフラーを出した・・
お世辞にも整った形じゃないけど一生懸命編んでくれたのがわかって涙が出てきた
本当にうれしかった
次の日あなたにお礼を言おうと教室に行くと学校を休んでた
終業式を休んでた
心配になって家まで行ったけど留守・・
次の日も留守・・誰もいない・・
ずっと誰もいないまま年末になって親からあなたが引っ越したことを聞いた
両親が離婚して母親に引き取られたことを・・
両親の仲が悪いことは寂しそうに話してたけど・・知らなかった・・
そんな時に俺は・・
酷いことを言って酷いことをして
せっかく編んでくれたのにありがとうも言わず・・
もしかしたらお別れを告げるつもりだったかもしれないのに・・
その夜編み目の大きさが違うマフラーを見て涙が止まらなくなった・・
あの時「ありがとう」って言えばよかった・・
俺も好きだよって言えばよかった・・
今でもこのマフラーも見るとその時を思い出す・・
そして許されるなら今でもありがとうって言いたい・・
冬が始まるよ
朝家を出ると吐く息が白くなったことに気付く
今年は冬が訪れるのが早いなんて思いながら駅へ
駅でいつもすれ違うあなた・・
あなたにスーツ姿で同じ時間に同じ場所ですれ違う
あなたはわたしを知らない・・いや忘れてるが正しいかも
わたしは・・あなたを知っている
話したことは一度だけ
高校生の時・・
地元の駅で・・
今みたいに毎日駅で見かけてた・
話したのは・・
わたしが駅で友達といたら、あなたはあなたの友達と歩いてて、友達同士が知り合いだったみたいで立ち話になり、あなたとわたしは横でよくある「どうしていいかわからない時間」を持て余していた・・
手持無沙汰な感じに耐えれなかったのか・・
わたしに「よくこの駅で見かけるね・・〇〇高校でしょ」って
わたしは「うん・・〇〇くんでしょ」と言うとビックリして「なんで知ってるの?」って言い終わると友達同士の話は終わりお互い違う方向に歩いて行ってしまった
なんで知っているか答えず・・
なぜ知っているか・・
それはあなたが好きだから・・
駅で初めて見て一目ぼれしたなんて
そんなこと言えない
友達という友達に調べてもらって〇〇中学出身の〇〇高校の〇〇〇〇君
サッカー部キャプテンで成績優秀 女子にモテる漫画の世界から出てきたような人
ずっと憧れてたからもっと話したかったけど・・
緊張して名前を言うのが精一杯だった
あなたは東京の大学へ
わたしは地元の短大に進学
あなたが地元に銀行に就職したのは風の噂で聞いてた
わたしは短大卒業後に就職したデザイン会社の先輩と結婚
あなたと話した駅から2つ目の駅の近くに住んでいる
もうその駅がわたしの生活の一部となってあなたとの思い出の駅に行くことはあまりなくなったが
いい思い出として時々思い出してた
そして今年の春に駅であなたとすれ違った
あの駅じゃない
この駅で・・
春の移動でわたしの住む町にある支店に転勤してきたみたい
高校生の淡い思い出と現実が入り混じる朝の瞬間
年齢を重ねて恥ずかしがり屋も解消されたみたい・・
だから・・
あの時なぜ名前を知っていたか・・
その答えを話す機会を楽しみに今日も駅に向かう道へ・・
表参道 並木道での言葉覚えてるかな?
表参道
お洒落な店が立ち並び自分なんて似合わないと思ってた
あなたは東京生まれ
俺は九州の田舎で生まれ東京はテレビで見る夢の世界・・だった
なぜか東京観光のつもりで受けた大学が受かってしまい周りからの勧めで思わぬ東京ライフを過ごすはめに
九州の大学に進学するつもりだった俺は東京へのあこがれも興味もなかった・・と言えば聞こえがいいが
ただのコンプレックスなのはわかってた
だから大学では同郷の輩とつるむか家にこもってた
標準後・・東京弁が特に無理だった
~じゃん~だね~
特別九州男児というほど男らしいタイプではないが優しい口調に言葉に身体が震えてしまう
そんなこんなで東京に来て半年が経つ時バイト先で知り合ったあなたに一目惚れ
九州など行ってことのないあなたは珍しそうに俺の話を聞き
あなたに東京の話を聞いて少しづつコンプレックスは解消
頑張って東京弁で話してたけどやっぱり所々で九州弁が出るらしく可愛く指摘を受けるのも幸せだった
告白も九州弁
「お前が好きやけん付き合ってくれん?」
俺は「お前が好きだから付き合って」と言ったつもりだが動転して九州弁がでたらしいが・・
男らしくてよかったとの感想・・結果オーライです
だんだんあなたと話すとお嬢さまだということに気づいた
九州のお嬢様とはスケールが違うから逆によかったのかも
お嬢様なのになんでバイト?とだいぶ後に疑問に思って聞いたら
親からも反対されたけどバイト先にたまた客として来て、俺の雰囲気に興味が沸き話したくなってバイトの申し込みをしたらしい・・その事実を知った時はうれしいよりも「お嬢様恐るべし」と思った
交際は順調で東京にいろんなところに行ったけどやっぱり
表参道でのデートが多った
あなたが好きな場所で俺も凄く好きだったから
でもあなたは東京で生まれ田舎なんてなくて東京の街並みは変わるけど自分に変化がないことを嘆いていた
「九州に嫁ぐのもありだね」と意地悪な目で言う表情は少し寂しそうだった
そう東京を離れられない運命を知ってたから・・
だから俺みたいな2流大学生で田舎者とは先がないのはわかってた
お互い口に出さないけどわかってた
でもそれを・・運命を変えようとしたのは俺じゃなく・・
あなただった
地元で就職を決め大学卒業が迫る1月
家出同然で夜中俺に部屋に・・
あなたは春からあなたと同じ九州で就職して生活する・・と
就職先も見つけて住むとこも決めた・・と
「お嬢様恐るべし」・・がまた出た
ただその時俺はその気持ちに応えられるほどの気概もなく・・結局あなたを傷つけた
親を大切にした方がいいって都合のいい言葉で説得して・・
実際は俺が現実から逃げたかっただけ
お嬢様を受け入れる器なんて俺も俺の親もなかった
親に迷惑かけたくなかった
あなたは親を捨ててまで俺を
俺はあなたより親を取った・・
それが現実
お別れは二人が好きな場所に表参道にしようと言ったのはあなた
最後に抱きしめて・・あなたが言った「元気でね」がイルミネーションでボヤけてた
秋になり冬が近ずくとテレビであの場所のイルミネーションが映る
二人が好きな場所
いまでもイルミネーションだけは綺麗なまま
二人の思い出は・・